聖マルクス墓地

Last-modified: Thu, 22 Jul 2010 08:04:22 JST (2831d)
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 1994年の10月13日は、暖かく、空の美しく澄んだ日だった。モーツァルトの遺体が埋葬された聖マルクス墓地に行き、墓を訪ねた。近くには整った墓はなく、モーツァルトが埋葬されたのは共同の墓穴だったという記録を納得させる場所だった。

 紅葉が始まっていて、カスターニエンの黄葉の色は美しかったが、訪れている人は殆どなく淋しさの身に沁みる墓地。続いて行った中央墓地にはかなりの人が居て、特に音楽家特別区の32A地区は人影が絶えなかった。

 こんな話がある。「モーツァルトを埋葬した場所は何処だとひつこく聞かれた墓守りが、およそこの辺りと記憶していた場所に、無縁仏の墓石を拾って来て立てた。また後の墓守りが、別のところに転がっていた嘆きの天使像を拾って来て墓石に添えた」のだと。

 実際には設計者も分かっているのだそうだが、今も言い伝えその侭の絶妙な取り合わせで残るこの墓を、私は、世界一美しい墓だと感じながら眺めた。1979年の10月、パリのペールラシェーズ墓地でショパンの墓を訪れた時の、不思議に其処だけが明るかった思い出に耽りながら、時間を忘れて飽かずに眺めた。

 明るい中央墓地の一角に、右にはベートーヴェン、左にはシューベルトの墓を従えて建っている記念碑は、あまりに晴れがまし過ぎてモーツァルトには相応しくないと思う。