新モーツァルト全集(NMA)

Last-modified: Thu, 22 Jul 2010 07:53:43 JST (2772d)

 先日久し振りに、ドイツの出版社ベーレンライター <Bärenreiter> のHPを閲覧していたところ、『NMAの終了通知』(刊行完了通知の方が良いか)という項目があって、それによると2007年の7月17日に、ザルツブルクのモーツァルトが住んでいた家(旧市街のゲトライデガッセにある生家ではなく、後に移り住んだ通称タンツマイスターハウス)で、演奏も含めた「刊行終了記念式典」が行われたようだ。記念演奏のヴァイオリンは塩川裕子、ピアノはモーツァルトのピアノ協奏曲全集を S.ヴェークの指揮で録音している A. シフ、弦は私がヴィーンで何度も聴いた、懐かしいモザイク弦楽四重奏団といったメンバーだった。

 この新全集(NMA)の出版計画が発表されたのは、私がまだ高校生だった頃と記憶している。わずかに聞き知った片鱗だけで想像できるこの膨大な作品全集を個人で購入するなど、貧乏高校生だった私には夢の夢だった。しかし、どうしても買いたかった。結婚後しばらくして家内を拝み倒して了解を取り付け、その代わり車は一生買うまいと決心して、華厳の滝にでも飛び込むような思いで購入を始めた。

 私が実際に注文したのは、この全集の出版が始まって5年ばかり経ってからだったから、やがてドサッと一度に持ち込まれた20冊ばかりの本の重みにも驚いたが、もっと驚いたのは、ペラペラの紙に書かれていた請求金額だった。それは当時の私の年収に近い額だったと記憶している。購入した太田洋行の太田圭二社長のご好意で、「無利子請求期限なし」という破格の条件で分割払いさせて貰ったが、完済までにはかなりの年月を要した。

 作曲者の生誕200年記念ということで出版が始まったわけだが、実際にはその前年の1955年に、「2台のピアノのための作品集」がこの全集の最初の巻として BA 4501 という書籍番号を持って刊行され、それ以来もう50年以上の年月が流れた。教会の建築には着工から何百年も経っているのにまだ建築中などという気の長い話も聞くが、一つの出版物が半世紀以上にわたって刊行され続けるような現象はあまり例がなかろう。

 出版の中心である楽譜については、モーツァルトの没後200年に当たる1991年に刊行された、オペラ「コシ・ファン・トゥッテ」を最後に全巻が完結したが、それぞれに対応している筈の「校訂報告書」(Kritischer Bericht)については、私の手元にはまだ幾つかの巻が届いていない。前記のホームページから入手した資料にも、2007年刊行(およそ○○ページ)などと書かれているものが何冊かあるので、厳密には完了予定通知ということになるのだろうか。2007年も終わるが、もうしばらく様子を見ないと正式な刊行完了とは言えないようだ。

 この新全集の内容の概要や問題点などについては別項で触れることになるだろう。