「フィデリオ」-3.12

Last-modified: Tue, 20 Jul 2010 11:40:06 JST (2868d)

 2度14度、2日続きの快晴。フランス辺りまで雲のない状態のようだ。11時からのアウグスチン教会の礼拝に参加、ヴィーン楽派の作曲家アルブレヒツベルガーの「ミサ曲ニ長調」を聴いた。全体的な印象としては簡略な書法と言えるだろうか。カールスプラッツで、れんぎょうの花とムジークフェラインの取り合わせを撮影、ヴィーンの春を見つけた思いがした。

 シュターツオーパーでベートーヴェンの「フィデリオ」を観た。開演の前に幕前で支配人の挨拶があった。50年前の今日、このオペラの建物は、ブルク劇場やシュテファン寺院とともに、アメリカ軍の爆撃で破壊されたのだと。二度とこのようなことがあってはならない、平和であり自由でなければならないと、静かな口調で語った。全部は聞き取れなくて残念だったが、終わった後の共感の拍手は、しばらく鳴り止まなかった。

 ヴィーンの市民、あるいはオーストリア国民にとって、50年前の国立オペラやブルク劇場の破壊は、彼らの文化を象徴する建物の破壊であり、シュテファン寺院の損傷は、彼らの魂そのものの損傷であったことだろう。

 爆撃で破壊されてから10年後の1955年、国立オペラが再建されたこけら落としに上演されたのが、ベームの指揮による「フィデリオ」で、劇場に入れなかった人々は、街角のスピーカから流れるこのオペラに聴き惚れたのだという。終幕の合唱の中に出てくる「Freiheit」という言葉は、ナチの時代から10年を経たオペラ座再建当時にあっても、ずっしりと重い実感だったに違いない。記念すべき日の「フィデリオ」の上演に巡り合えて幸せだった。

 「レオノーレ第3番」を聴いたのは、いつ以来のことだろうか。終幕の開始前にこの序曲が演奏され始めた時、全身が震えるような感動を覚えた。SP時代から慣れ親しんできた、「エグモント序曲」と共に最も好きなベートーヴェンの序曲。演奏にも熱が入っていた。同じ思いの人が多かったらしく、この序曲が終わってからの拍手は盛大で、指揮者が次の演奏に移ろうとしても鳴り止まず、2度も楽員を起立させてアンコールに応えた。

 オペラ全体の演奏も素晴らしく、音楽的な内容についての様々な感想もあるが、何よりも、ヴィーンの現代史を語るに欠かせない出来事があった50周年の記念日に、その建物の中に居合わせ、しかも「フィデリオ」が演目だったという希有の幸運を神仏に感謝したい。

 もう買うまいと思っていたポスターをまた買ってしまったが、今日の「フィデリオ」は特別としよう。